組曲
- 2009/11/10
- 22:15
「おはながすきだったらよかったのに。」
夜明け前の朝露に濡れた芝生の上に座っている僕に、やさしく、すこしだけかなしげなこえでかのかのじょはいった。 太陽が昇る少しだけ前の時間で周りの草花たちはプチプチと音を立ててかすんだ美しい空気の中で一日野始まりを待っていた。
僕は聞き流していた。そんな優しい言葉さえも聞こうとしない人間になっていた。こびとたちが、カタカタと不自然に乾いた音を立てて芝生の上を一列に並んでくねくねとへびのようにとおりすぎていった。 それから彼女は美しく紡いだ糸のようなもので空中にアルファベットの「K」を描いた。とても優しく繊細で動きのあるデザインだった。僕はただ眺めてすぐに目をそらした。その一文字のアルファベットに僕が今までに捨ててきたすべての大切なものが含まれてると直感したからだ。ぼくとかのじょのじかんはいつも、夜明け前の一時だけ繋がりそしてまた別れていく。朝の光が僕だけを包み、絶望といらだちが僕を襲い新しい一日が始まってしまうのだと僕に思わせる。いつの間にか彼女はいない。
それから数年経ち、デパートで彼女のかけらを見つけ僕は少し優しい気持ちになる。
幾度となく忘れてしまういつもの物語り。
二十世紀末の僕の記憶。
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